終末期に家族ができること 撫でる・香り・風のケア 緩和ケアの現場から

「もう、してあげられることは何もないのかな」
「そばにいても、何を話せばいいのかわからない」

病気が進み、終末期と呼ばれる時期に入った家族を前に、こんな気持ちになっていませんか。

こんにちは、看護師でライフコーチ、ディマティーニメソッドのファシリテーターの愛原百麗です。看護師として働いて、39年になります(2026年時点)。いまも、がんの終末期医療にかかわる病院で働いています。

ドクター・ディマティーニ・メソッド トレインド・ファシリテーター 愛原百麗(看護師×ライフコーチ)

最初にお伝えしたいのは、終末期に家族ができることは、たくさんあるということです。それは「治すこと」ではなく、そばで心地よさを届けることです。

わたしは勤務先の病院で、アロマの資格を持つスタッフ(セラピスト)が、ご家族と一緒に患者さんをケアする場面を見てきました。そして家族としても、義父を自宅で、義母を病院で見送りました。この記事では、そこで見てきた「撫でる・香り・風」のケアを中心に、終末期に家族ができることをお伝えします。

この記事では

・終末期に家族ができるのは「心地よさを届けること」

・緩和ケアの現場で見てきた、家族も一緒にできる5つのケア

・呼吸が苦しそうなときに、家族ができること

・香りや風を使うときに気をつけたいこと

・自宅で看取るときに、家族ができること

・「何もできなかった」と自分を責めないで

について解説します。

無料PDFこの記事はワークシート付きです

記事の中でご紹介する『最期の時間に伝えたいことシート』(PDF・A4/2枚)を、無料でダウンロードできます。印刷して、そのまま書き込めます。

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終末期に家族ができるのは「心地よさを届けること」

病室で、母と娘がアルバムを見ながら笑い合う

緩和ケアは、家族のつらさもやわらげるケア

国立がん研究センターのがん情報サービスでは、緩和ケアを「がんに伴う心と体のつらさを和らげる」ケアと説明しています。そして、ご本人だけでなく、家族のつらさも和らげるものだとしています。

終末期は、治療で病気を治すことが難しくなった時期です。ケアの目標は、病気と闘うことから、苦しさをやわらげ、その人らしく穏やかに過ごすことへと変わっていきます。

家族にしかできないことがある

痛みや息苦しさをやわらげる薬は、医師や看護師が調整します。でも、なじみの手で触れること、なじみの声で話しかけることは、家族にしかできません。

「何もしてあげられない」と感じたときこそ、これからご紹介するケアを、ひとつだけでも試してみてください。

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緩和ケアの現場で見てきた、家族も一緒にできる5つのケア

終末期に家族も一緒にできる5つのケア(「治す」より「心地よさ」を届ける) 1 やさしく撫でる(手や足を、セラピストや看護師と一緒に) 2 好きな香りを届ける(精油をたらしたコットンを、ベッドの頭側に) 3 顔にやさしい風を(小さな扇風機で、鼻と口のまわりに) 4 声をかけ、手を握る(耳は最後まで聞こえているといわれます) 5 その人らしさを大切に(好きなもの、好きな音楽、好きな話)。香りや風は、病棟の看護師に確認してから始めましょう

1. セラピストや看護師と一緒に、やさしく撫でる

わたしが働く病院では、アロマの資格を持つスタッフが、むくみ(浮腫)のある患者さんにマッサージをしています。触れるのは主に手で、ときには足のすねやふくらはぎにも触れます。

そのときセラピストは、ご家族に「一緒に触れてみませんか?」と声をかけます。ご家族もセラピストと一緒に、患者さんの手や足をやさしく撫でるのです。

むくみのある肌は薄く、傷つきやすくなっています。病状によっては、マッサージを控えたほうがいいこともあります。ご家族は強くもまずに、手のひらで包むように「撫でる」「さする」だけで十分です。はじめは、看護師やセラピストと一緒に行ってください。

義母に触れて、わたしが癒されたこと

義母を見送る前、わたしは、近いうちに義母を失う不安と悲しみで、すっかり落ち込んでいました。そのとき義母には、もう意識がありませんでした。

意識のない義母の胸を、マスク姿でやさしくさする愛原百麗(義母の目元はぼかしています)

意識のない義母の胸を、さすっていたとき

それでも義母の胸をさすっているうちに、不思議と、わたし自身の心がほどけて、癒されていくのを感じました。

触れることは、触れられる人だけのケアではありません。触れる家族の心も、そっと支えてくれるのだと、そのとき知りました。

実家の母の手のひらにアロママッサージをしたあと、母の手を握る

実家の母の手のひらに、アロママッサージをしたあと

実家の母にも、手のひらにアロマのマッサージをしたことがあります。手のひらを包んでゆっくりさするだけで、言葉にしなくても気持ちが通い合うように感じます。

2. 好きな香りを届ける

病院では、精油を数滴たらした不織布やコットンティッシュを、ベッドの頭もとの板に貼る方法で香りを届けています。香りは数時間もちます。肌に直接つけないので、ご家族も取り入れやすい方法です。

義母の病室は個室でしたが、ときには便のにおいがこもることもありました。そんなときは、まず換気をしてから、アロマの香りを使いました。

やさしい香りが広がると、わたし自身も癒されましたし、担当の看護師さんや、面会に来た親族も「わ~、いい香り」と喜んでくれました。義母はもう意識がありませんでしたが、人を喜ばせることが好きな人だったので、きっと喜んでくれたと思います。

香りは、ご本人の好みがいちばんです。話せないときは、元気なころに好きだった香り(柑橘系、森の香り、石けんの香りなど)を思い出してみてください。専用の道具がなくても、コットンやティッシュで香りは楽しめます。

3. 顔にやさしい風を当てる

息が苦しそうなときは、小さな扇風機で顔(鼻と口のまわり)に、やさしい風を当てるケアがあります。病棟でも行っているケアで、くわしいやり方は、次の章でご紹介します。

4. 声をかけ、手を握る

わたしは、ご家族に「耳は最後まで聞こえているといわれています」とお伝えし、最期まで声をかけたり、手を握ったりしていただいています。

2020年にカナダで発表された研究では、ホスピスで亡くなる直前の、呼びかけに反応しなくなった患者さんの多くで、音の変化に対する脳の反応が確認されました(Blundonら)。言葉の意味までわかっているかはわかりませんが、聞こえている可能性があるということです。

返事がなくても、「ありがとう」「そばにいるよ」「大丈夫だよ」と伝えてみてください。義父も最期に「ありがとう」と言って、何度もわたしの手を握ってくれました。

終末期には、つじつまの合わないことを話したり、家族の顔がわからなくなったりする「せん妄」が起こることもあります。そんなときの接し方は、こちらにまとめています。

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5. その人らしさを大切にする

好きだった音楽を小さな音で流す、ふるさとや昔の仕事の話をする、好きな飲み物を少しだけ口にする。その人らしさに触れる時間は、ご本人にとっても、見送る家族にとっても、大切な思い出になります。

義父は、主治医の許可をもらって、在宅酸素をしながら大好きなビールを飲み、満面の笑みを見せてくれました。口にするものは、病状によっては控えたほうがいいこともあるので、必ず医師や看護師に確認してください。

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呼吸が苦しそうなときに、家族ができること

アロマの香りに包まれて、穏やかに休む高齢の女性の水彩イラスト(精油の瓶、オレンジ、ユーカリ、フランキンセンス、ベルガモット、小さな扇風機)

病棟で使っている香り

呼吸が苦しい患者さんには、フランキンセンス、ユーカリ、ベルガモット、オレンジ・スイートなどの香りを使うことがあります。

  • フランキンセンス:深く落ち着いた、樹脂の香り
  • ユーカリ:スーッと鼻に抜ける、すっきりした香り
  • ベルガモット:やわらかく、ほっとする柑橘の香り
  • オレンジ・スイート:甘く、安心感のある柑橘の香り

セラピストが、ユーカリやペパーミントの精油で胸を20分ほど軽くマッサージしたり、精油を数滴たらしたコットンティッシュを、胸のあたりの下着の上に置いたりすることもあります。香りに包まれて、患者さんの表情がゆるみ、リラックスされた場面を、わたしは何度も見てきました。

ただし、アロマの香りが呼吸の苦しさそのものをやわらげるかどうかは、まだ十分な研究がありません。日本緩和医療学会のガイドラインでも、呼吸困難へのアロマセラピーは「今後の検討課題」とされています。香りは「リラックスのため」と考えて、苦しさが強いときは、まず看護師に伝えてください。

顔にやさしい風を当てる「送風」

病棟では、香りと一緒に、小さな扇風機の風が顔(鼻と口のまわり)に当たるようにして、ケアをしています。

息が苦しそうなときの「顔への送風」(小さな扇風機で、できるケア) 1 小さな扇風機を用意(手で持つタイプや、卓上のタイプ) 2 顔に風を当てる(鼻と口のまわりに、風が届くように) 3 弱い風で、5分ほど(研究でも、顔に5分ほど当てる方法が多い) 4 様子を見ながら(寒くないか、いやがっていないか) 5 苦しさが強いときは、すぐに看護師へ(薬で楽にする方法もある)。日本緩和医療学会のガイドラインで「強い推奨」とされているケア

この「顔への送風」は、日本緩和医療学会の「進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン 2023年版」で、「強い推奨」とされているケアです。研究の多くは、手で持つ扇風機や卓上の扇風機で、顔に5分ほど風を当てる方法でした。足に風を当てるより、顔に当てたほうが、息苦しさが楽になったという結果が出ています。

扇風機なら、ご家族も一緒にできます。寒くないか、まぶしくないか、いやがっていないか、ご本人の様子を見ながら使いましょう。

苦しさが強いときは、がまんせず看護師へ

呼吸の苦しさは、薬でやわらげる方法もあります。上半身を少し起こすなど、体の向きで楽になる方もいます。苦しそうなときは、遠慮せずにナースコールを押してください。ご家族がそばで不安になったときも、同じです。

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香りや風を使うときに気をつけたいこと

病室で香りを使うときの6つの約束(香りは「やさしく、うすく」) 1 先に看護師に確認(持ち込んでいいか、使い方を相談する) 2 本人の好みを優先(話せないときは、元気なころ好きだった香り) 3 うすく、離して(コットンや不織布に数滴、ベッドの頭側に) 4 まわりの人にも配慮(大部屋では、とくに控えめに) 5 火は使わない(キャンドルやアロマランプは使わない、酸素のそばでは、とくに注意) 6 肌に使うのはプロに(精油のマッサージは資格のあるスタッフに)。においが気になるときは「換気をしてから」香りを

香りを使う前には、必ず病棟の看護師に確認してください。病院によって、持ち込めるものや使える場所が違います。

酸素は、物が燃えるのを助ける性質があります。厚生労働省も、在宅酸素療法をしている方とご家族に、火気の取り扱いに注意するようよびかけています。酸素を使っているそばでは、キャンドルやアロマランプなど、火を使うものは使わないでください。

ユーカリやペパーミントのように香りの強い精油は、むせたり咳き込んだりする方もいます。精油を飲んだり、原液をそのまま肌につけたりするのも避けましょう。肌に使うマッサージは、資格のあるスタッフに任せると安心です。

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自宅で看取るときに、家族ができること

義父は、自宅で8か月、療養しました。そのあいだに、一度だけ救急車で運ばれたこともあります。

不安でいっぱいだったわたしたちを支えてくれたのは、主治医、訪問看護師、ヘルパーさん、ケアマネジャーさんでした。みなさんが集まるサービス担当者会議で、これからのことを一緒に話し合えたことで、不安が少しずつ消えていきました。

自宅で看取るときに、家族がいちばん大切にしたいのは、ひとりで抱えないことです。訪問看護は24時間対応してくれるところもあり、夜中に困ったときも電話で相談できます。まずは電話して、話を聞いてもらいましょう。

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「何もできなかった」と自分を責めないで

見送ったあと、「もっとできたはず」「あのとき、そばにいてあげられなかった」と自分を責めるご家族を、たくさん見てきました。

でも、そばにいたこと、手を握ったこと、名前を呼んだこと。それは、あなたにしかできなかった、立派なケアです。義母の胸をさすりながらわたし自身が癒されたように、家族のケアは、家族の心も支えてくれます。

つらいときは、担当の看護師に気持ちを話してみてください。がんの患者さんのご家族なら、全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」で、その病院にかかっていなくても相談できます。病院の医療ソーシャルワーカーも、頼れる相談先です。

「最期の時間に伝えたいことシート」で気持ちを整理する

1枚目は、その人が好きだった香りや音楽、ほっとする触れ方を書く「その人が好きだったもの」と、「伝えたい言葉」の欄です。看護師やセラピストに見せて、ケアに生かしてもらうこともできます。

2枚目は、面会の日に「したこと」と「その人の様子」「わたしの気持ち」を書く「そばにいた時間の記録」です。あとから読み返したとき、「わたしはちゃんとそばにいた」と思える記録になります。

無料ダウンロード

最期の時間に伝えたいことシート(PDF・A4/2枚)

その人が好きだった香り・音楽・触れ方と、伝えたい言葉を整理するページと、面会の日に「したこと」「その人の様子」「わたしの気持ち」を書きとめる記録のページがセットになっています。

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※看護師の経験をもとにした、愛原百麗オリジナルのワークシートです。診断や治療の代わりにはなりません。

見送ったあとの気持ちについては、こちらの記事でも書いています。

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よくある質問

木製のクエスチョンマーク

Q. 意識がなくても、触れたり話しかけたりする意味はありますか?

あります。耳は最後まで聞こえているといわれ、研究でも、反応がなくなった方の脳が音に反応していたことが報告されています。そして、触れたり話しかけたりすることは、ご家族の心を支える時間にもなります。

Q. 病院にアロマを持ち込んでもいいですか?

病院によって決まりが違います。持ち込む前に、必ず担当の看護師に確認してください。大部屋では、ほかの患者さんへの配慮も必要です。

Q. どの精油を選べばいいですか?

いちばん大切なのは、ご本人の好みです。迷ったら、病棟でもよく使うオレンジ・スイートやベルガモットなど、やわらかい柑橘系の香りを、うすく試してみてください。いやそうな表情をされたら、すぐに外しましょう。

Q. 扇風機の風は、どのくらい当てればいいですか?

研究では、顔に5分ほど風を当てる方法が多く使われています。弱い風から始めて、寒くないか、いやがっていないかを見ながら調整してください。

Q. 仕事でなかなか面会に行けません

短い時間でも、会いに行くことに意味があります。行けない日は、電話やビデオ通話で声を届ける方法もあります。「行けなかった」と自分を責めすぎないでくださいね。

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終末期に家族ができることのまとめ

  • 終末期に家族ができるのは、「治すこと」より「心地よさを届けること」
  • セラピストや看護師と一緒に、やさしく撫でる。触れることは、家族の心も支えてくれる
  • 香りは、精油をたらしたコットンをベッドの頭側に。においが気になるときは換気してから
  • 息が苦しそうなときは、小さな扇風機で顔に風を(ガイドラインで強い推奨)
  • 耳は最後まで聞こえているといわれる。声をかけ、手を握る
  • 香りは看護師に確認してから。酸素のそばで火は使わない
  • 自宅なら、訪問看護に電話。ひとりで抱えない

今日は、ワークシートの「伝えたい言葉」だけでも書いて、声に出して伝えてみてくださいね。

参考にした資料

  • 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」ページを見る
  • 日本緩和医療学会「進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン 2023年版」Minds(概要)/III章 推奨(PDF)
  • Blundon EG, Gallagher RE, Ward LM. Electrophysiological evidence of preserved hearing at the end of life. Sci Rep. 2020. 論文を見る
  • 厚生労働省「在宅酸素療法における火気の取扱いについて」ページを見る
最後までお読みくださりありがとうございました。

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